CLAPi u-he Zebralette 3 Beta版 レビュー
主役音源として使えそう
ついに2024年2月16日にパブリックベータ版が公開された。 Zebralette3の登場は、Zebra2からZebra3への引越準備の合図となる。 個人的に使う音源はZebraだけで十分と思っているので、その音源のオシレータ部分のバージョンアップは最重要。
Zebra3の登場まではZebra Legacyをメインで使って、Zebralette3は補助的に使おうと思っていたが、触ってすぐ、主役はZebralette3だと思い始めた。すごく前からやってみたいコンセプトがあり、それをZebralette3であれば実現できそうなので、暇を見つけて実験に取り組もうと思う。
構造
信号の流れは以下のようになっている。これは頭に叩き込んでおきたい。 注目すべきはベジェ曲線で描いたCurveは波形だけなく、あちこちで利用できること。 FXだけでなくRendererのAdditive Synthにも可能。 また内部的なことは不明だが、多くのモジュールでベクター中心に処理しているように見える。 Rendererで出力信号としてサンプル処理されるのだろうか? ベクターはポイントしか情報を持っていないため、曲線部の処理をする場合、計算コストがすごいことになる。 実際CPUが悲鳴をあげるので、やはり無理しているようだ。 ミドルクラスのパソコンには少し荷が重い。
Osc Sourceは切替え式
Zebralette3のオシレータはCurve GeometryとCurve Spectrumの切替え式となっていて、意味を理解している必要がある。 Osc Sourceを切替えても、カーブは切替わることはなく同じものを使う。 見た目は同じなのにモードを切替えると意味が全く異なるカーブになるという、Zebra2からの分かりにくい仕様はそのまま。 波形と周波数スペクトラムを相互に曲線で制御するのは無理なので、どちらかを選択するのは仕方ないところ。 慣れてしまえば、どうということはないのだが、なかなか厄介な基本構造だと思う。20年ぐらい続いているのだから、もはや伝統。 全体的に親切なアニメ表示が控えめなのはu-heらしい。最近の分かりやすいUIを期待してはいけない。 u-he製品全般が専門的でギークな方向なので、分かりやすさはそれほど重要ではないのかも。
一方人気のSerumやVitalは波形、周波数スペクトラム、位相が連動して見れるので迷いもなく分かりやすい。 ただサンプルベースなので根本的に違うし、波形の自由度とモーフィングは比較にならない。
下はCurve Geometryで矩形波を出力している。 カーブは波形と同じ形になっている。
下はそのままCurve Spectrumに切り替えてみたところ。 カーブは周波数スペクトラムと同じ形になっている。
Additive Synth
Zebra2の倍音を1本1本調整できるSpectroが廃止された。 各倍音を個別調整したい場合は低次倍音のことが多い。 これは対数表示によって明確なので細かく制御可能。 また大量の高次倍音の調整はざっくりカーブで可能。 FXで奇数、偶数の調整をするなどできるので困ることはなさそうだ。
凄いのは倍音の配置をいじるというModifierだろう。何が出来るかチェックに時間がかかりそうだ。 下動画はCompressionで、倍音を基音に集めている。
Additive Synthの利点でもあり欠点でもある特徴として位相が崩れていく現象がある。 下はノコギリ波を出した状態だが、すぐにオシロスコープ上の波形は崩れてしまう。おそらく2度ときれいなノコギリ波には戻らないと思われる。 これは位相の問題で、音の印象としてはほとんど変化がない。こういう挙動を示すシンセって今までなかったと思う。 個人的にはこれは利点だと思う。これをどう活かすかは、これから考える。 普通の挙動をしてほしい場合はWavetableを使えばよい。
素直な波形
デジタル的に素直で理想的な周波数特性を示している。機械的でつまらないという話も出そうだが、zebraのOSCは幾何学をきっちり描けることが重要。下は440Hzを鳴らしたところ。ナイキスト周波数まで理論通り。
下はZebra2のノコギリ波。高域が随分落ちているのが分かる。 それでも12kHzぐらいまで伸びているので、同じように聴こえる。 猫には違って聴こえるだろうけど。
強力なOsc Editor
波形描画が強力すぎ! 手軽に複雑な波形が描けて、それを好きなようにモーフィングできる。 このプロセスがおそらく最も柔軟なシンセだと思う。
作業中にグリッドの線数をXY個別に自由に設定できるので、奇数、偶数など基準を取りたいときに超便利。 積極的に活用することになりそうだ。
もはや波形編集において比較対象は他シンセではなく、Inkscapeなどのドローソフトとなる。 結果はドローソフトよりも強力だった。 Zebralette3は、波形専用エディタなのでドローソフトでは難しいサイン波や指数関数、位相操作などの曲線が手軽に行えるところがポイント。ただし本当の意味での正確性はなく近似曲線であることは知っておいた方がいい。 ベータ版を触る前は、ドローソフトで描いたものをインポートして使おうと思っていたが、その必要性がなくなってしまった。というかインポートの敷居が高かった。Zebralette3で描いたものをドローソフトで利用するという使い方が一番良さそう。もしくは、それを加工して戻すとか。下はInkscapeのXMLエディタで修正しているところ。ちゃんとZebralette3に戻すことが出来た。
Zebra2では、自由度が低く扱いにくかったため、あまり波形編集しなかったのだけど、Zebralette3からは逆に波形編集が楽しくて仕方ないという状態になった。 音を出しながら波形を編集するというプロセスは次の段階に進んだのは明らか。 Zebra2でも出来ていたことではあるが、自由度が雲泥の差。 音を出しっぱなしにしながら、カーブの微妙な変化をリアルタイムでチェックできる革命。 従来の音響は基本波形の加工や合成という流れだったのだが、そこから解放されて直接的にアクセスする。 これからは図形と音の関係がダイレクトに吟味出来る世界観にシフトした。 ある意味新しい分野とも言えるので、基礎がなく、試行錯誤から始めることになる。 エッジの角度や数の影響、カーブの影響、遷移の種類などを理論化するといいかもしれない。 完全に未踏分野だね。 さらに最終リリースでUHM言語のインポートも出来るようになると思う。これが揃えばエディタ機能は完璧だね。
Wavetableサインは近似
ベジェ曲線は真円が描けない。サインカーブもやはりできていない。まぁベジェ曲線を使う時点で、それはあきらめる必要がある。下はサイン波を描いたものだが、本体の周波数スペクトラムを見るだけでも低次倍音が出てしまっているのが分かる。ただ実用的には余計な倍音も基音に対して-70dB以下なので大きな問題はない。
ちゃんとしたサイン波を作りたい場合はZebra2でやっていたように、Curve Spectrumで行う必要がある。 下のようにきれいに基音だけの出力となる。
カーブの数は、OSCは16個と書かれているけど、ベータ版は15個だね。MSEGは最大7個まで扱える。 ガイドカーブは3個で配置は固定でモーフィングがクロスフェードだけ。 扱えるポイントの最大数は気になるところだが現在は不明。Wavのインポートでは最大100のようだが、これが最大なのかな?
Osc FX
Zebra2に比べてパラメータが増えて扱いやすくなった。カテゴリーごとに整理されて、挙動もつかみやすくなったと思う。 何よりも波形表示とスペクトラム表示ができるので、何が起きているのかよく分かるようになった。 視覚的な補助は格段に分かりやすくする。Editor画面ではグリッド数も設定できるので、それでより詳細な動きも確認できる。
気になるところ
負荷が高すぎる件については、バグがあるらしく、最終リリースまでには下がる可能性が高い。 DCカットしないのが素晴らしいのだけど、実用という意味では出力段にON/OFFできるDCカットスイッチは欲しいかも。HPFでやれってことかな? まぁそれでもいいけどFXを1個使ってしまうのがね・・・ とりあえず外部DCカットフィルターを使うことにした。
ダークテーマお披露目
要望の多かったダークテーマのデザイン。鍵盤暗すぎないか?と思うけど、こっちの方がカッコイイね。 今の明るいUIも好きだけどね。
その他
MSEGの柔軟性も素晴らしく、モーフィングするMSEGを何に使うべきか試行錯誤中。 アコースティックな音にも出来るし、複雑さの方向でも使える。 またHiveゆずりのMOD MATRIXは、かなり柔軟なので、慣れるまで時間がかかりそうだ。 EffectsもHiveと同等のDelay、Reverb。パラメータが普通なので迷いがないと思ったらそうでもなかった。やっぱりu-he。 KEYSのMWは個人的にうれしい。入力鍵盤にMWがないので・・・
各部の掘り下げは、今後別ページで書いていきます。このページは、しばらくベータ版の印象もしくは感想などを追加していきます。サウンドハウスのレビューには、あまりマイナス要因は触れていないのだけど、こっちは出来ないこともビシバシ書いておきます。