VST2i クラシックシンセ Ensoniq SQ-80 ソフトウェア版 無料SQ8L
かなり前からあるプラグインなのだが、VST2 32bitと仕様が古いため、Cakewalkを使っていたときは見送っていた。 1年ほど前からDAWをReaperに切り替えて、昔のプラグインも普通に使えるようになったので試してみる。 SQ8Lの最新版はv0.91bのベータ版で正式版にもなっていない。 残念ながら開発は永久にストップしたようだ。
- 無料
- VST2 32bit
- V0.91b 2008年6月19日 最終リリース
- プログラムサイズ 1MB
- 8bitウェーブ
- ポリフォニック 最大8ボイス
- ハイブリッドシンセ(デジタルオシレータ、アナログフィルタ、アナログアンプ)
- ノンエフェクト
- 開発者 Siegfried Kullmann
- モデルとなった実機 Ensoniq(アメリカ) SQ-80(1987年)
- http://www.buchty.net/ensoniq/
第一印象としては、完成度が高く安定している。無料版にありがちな不安定さとかは皆無だった。そして音が80年代そのもので、これは今だからこそ価値が出てきたように思う。最新シンセで音作りする場合、意識しない限り、この音は作らないだろう。あえて80年代の音を忘れないために、SQ8Lを入れておくのはありだと思った。プリセットは実機のSQ-80をなるべく忠実に再現しようとしている。どのプリセットも完成度が高く実用的。サウンドデザイナーの力量にも驚いた。
またエフェクトは搭載していないのだけど、リバーブ感のある音が多い。その実態はエンベロープを巧みに使ってリバーブ的な雰囲気を作っているだけ。高品質なリバーブに慣れていると、このような妙な技は、かえって新鮮だったりする。これも80年代的な雰囲気の要因にもなっている。
60~70年代のアナログシンセは懐かしいという音ではなく、今でも使われ続けている普遍的な音になりつつある。ところが80年代の音というのは、技術的に過渡期であり、置き去りにされてしまったようだ。SQ-80にはそういう忘れ去られて使われなくなった音がぎっしり詰まっている。 OSC波形は固定なので、この中で音作りすることになる。そういう制約のおかげで80年代にとどまり続けることが出来そうだ。
個人的にシンセはu-heだけで間に合うのだが、リファレンスとしてSQ8Lは入れておくことにした。個人的に似たような位置づけのソフトシンセは、FM音源のVOPMex、Dexed、サンプラーのTX16Wxなどがある。メインで使うことはないけど、たまに実験とかで思い出したように引っ張り出してきて、u-heで再現してみたりする。
下はオリジナルのEnsoniq(アメリカ) SQ-80で、1987年に発売されたもの。 当時は定価298000円で販売されていた。 OSC波形を採用したデジタルオシレータとアナログフィルタのハイブリッド構造。 本体はボタンを中心としたパネルレイアウトで、DX7の影響が伺える。 さらにシーケンサーも搭載していた。(SQ8Lにはシーケンサー搭載予定なし) またSQ-80の兄弟機種にESQ-1(1985年販売)があり、サウンド、操作性共に共通点も多い。 サウンドはDX7以降の80年代ど真ん中である。
SQ-80のディスプレイは懐かしい16セグメントVFD。 SQ8Lも、この読みにくいVFDを継承している。とりあえず雰囲気はあります。 VFDはノリタケ伊勢電子開発の日本の技術。
BANK プリセット
赤色LED上でマウスクリック(左右どちらでも)すると以下のリストが表示される。 鳴らしたい音色をマウスで選択する。 BANKはA,B,C,Dとあり、AとBがUSERプリセットで、CとDがFactoryプリセット。 Dは、実機であるSQ-80のプリセットで40個ある。 Cは、SQ8Lのオリジナルプリセットだろう。 どちらも80年代らしい音で素晴らしい。 A = C、B = Dと同じプリセット内容になっているので、AとBは改変して使ってねということかな? それぞれのBankは128個まで登録できる。
またプリセットの切り替えの際に前の音が途切れず最後まで鳴ってくれる。 これはハードウェアシンセぽい挙動で好感がもてる。
Bank Cは、SQ8Lのオリジナルプリセットで固定
Bank Dは、オリジナルSQ-80のプリセットで固定
上下ボタンとBANKボタンでセレクトすることも可能。
WRITE
音色を作ったら、まずプリセットの名前は下記のようにして書き換える。 そしてWRITEボタンを押す。
そうすると以下のダイアログが開くので、保存したいスロットを選択して、ダイアログ上のWiteを押して保存する。 ここで保存したプリセットはWin10の場合は、プラグインと同じ階層にあるSQ8L_backup.datファイルに自動保存されるので、次回起動したときも呼び出される。
Win11だと事情が違うようだ。以下に保存されていた。
C:\Users\〇〇\AppData\Local\VirtualStore\Program Files\Common Files\Steinberg\VST2\SQ8L
バンクの保存、読み込み等はファイルメニューから行う。
以下のように4種類の入出力がある。
- library:.8XL、.datファイル AB全体をセットで扱える
- bank:.8XL、.datファイル bank単位
- program file:.SYXファイル(SysExデータ)パッチ単位
- bank file:.SYXファイル(SysExデータ)bank単位
OPTIONS
マウスカーソルの動きや、SQ80のエミュレートなどの設定を行う。
INFO
Modulation source usage
現在のパッチで使われているモジュレーションが一覧できる。
About
PANIC
音が鳴りっぱなしになったときなどに、ここをクリックするとリセットされ音が止まる。 MIDI CCで、音がおかしくなったときにも効果あり。
INIT
プリセットを初期化する。OSC1のSAWが鳴る状態になる。 非常に素直なデジタルノコギリ波。
SEND
実際のSQ80 / ESQ1を使用する場合に使用するようだ。
REQ(request)
こちらも実際のSQ80 / ESQ1を使用する場合に使用するようだ。
シンセサイズ
音作りは、その機種のシンセサイズの仕組みを把握しないと不可能。 ネットでSQ8Lを少し検索すると、試しに鳴らしてみた程度の動画やレビューは沢山あるものの、それ以上の情報がほとんどなかった。 KVRのランキングでは人気シンセとして上位に君臨しているのに意外であった。 デジタルシンセの基本が分かっていれば、それほど難しいことはないのだが、実機と同じように視覚的な助けが乏しいので、今どきのソフトシンセに慣れている人からしたら、えらくとっつきにくいUIとなっている。 それでも、この少ない情報量のディスプレイとしては、かなり頑張っているUIだと思う。 実機の雰囲気をそのままにしてくれたのはありがたい。 当時のこのような工夫も財産だと思うのだ。
OSC波形
SQ8L(SQ-80)は、8bitのOSC波形を採用したシンセで、1周期分の短い波形を数十個搭載している。この小さな波形データを繰り返し再生することで音作りをしている。
また打楽器などの音は、やや長いサンプル(Attack Wave)を持っている。
合計で以下の75個のサンプルを本体1MBの中に保持している。 54 BOWING以降はAttack Waveとなっている。 またDRUMS1~5はキーボードにセットが割り当てられている。
下図はSINEを鳴らした見た時の周波数スペクトル。 今どきのシンセと比べると結構ノイジーなのが分かる。
サンプルは54~69のAttack Waveを鳴らしたもの。生のサンプルなので、ノイズが入っているのが明らかになる。
次にDRUMS1を鳴らしてみた。。
DRUMS 1~5のキーボードへの割り当て図。 音は基本的に同じだが、広い音程に割り当てられている楽器と構成が違う。
各OSC波形の詳細はこちらのページ
信号の流れはパネルのボタン配置そのまま
Moogにならって分かりやすい配置となっている。左から右へと信号が渡され処理されていく。 基本的にアナログシンセと同じようにOSC-DCA-FILTER-DCAという流れになっている。
4個あるLFOとENV、3個あるMAT(Matrix Modulator)は、上記OSC、DCA、FILTERに複数配置でき、デジタルならではの柔軟性ある作りとなっている。
実機パネル。ほとんど同じ構成なのが分かる。 SQ8LはLFOが1個多いね。SYNCやAMもワンタッチで掛けられるようになっている。
下図はマニュアルから抜粋。 SQ8LはModを掛けられる箇所が増えるなど少し機能が追加されている。
OSC(オシレータ) x3
オシレータボタンをクリックすると、VFD風ディスプレイに任意のOSC波形、各種パラメータの設定項目等が表示される。ディスプレイ上下にあるノブを回すことで設定を変更できるようになっている。またマウスで直接ディスプレイをクリック操作可能。
- OCT:-3~5 オクターブ
- SEMI:-12~12 半音
- FINE:-31~31 31で半音変化する。1当たり約3セント。
- WAVE:75個の波形から選択
- MODS=:これは右の2項目がモジュレータだということを示しているだけ。
- MOD1:-63~63 下項目から任意を選択。MIDI CCも可能なようだ。
- MOD2:-63~63 上記MODと同じ
DCA(Digitally Controlled Amplifiers) x3
対応しているOSCのボリューム関係を調整する。 ディスプレイ内の右にある三角マークをクリックすることで、対応しているOSCとDCAの行き来が可能。
- LEVEL:0~63 音量
- OUTPUT:ON / OFF 音の出力の切り替え
- MOD1:-63~63 上記MODと同じ
- MOD2:-63~63 上記MODと同じ
FILTER
実機はアナログ回路の4ポール・ローパスフィルタ。自励発振はしない。 3個のOSC信号がここで統合される場所でもある。 OSCがデジタルで、フィルタやアンプがアナログ回路なのでハイブリッドシンセと言われる。
- FREQ:0~127 カットオフ周波数(CC#74)
- RES:Q:0~31 レゾナンス
- KEYBD:-63~63 キーボードトラッキング
- MOD1:-127~127 FREQを変調 上記MODと同じ
- MOD2:-127~127 FREQを変調 上記MODと同じ
DCA 4
最終出力のENV4の設定と、左右の出力バランスをコントロール。 サチュレーション効果もある。
- ENV4:0~63 使えるENVは固定されている。
- SAT:OFF,EMU,1~15 サチュレーション。
- PAN:-63~63 パン(左右のバランス)
- MOD1:-63~63 音量レベル用 上記MODと同じ
- MOD2:-63~63 PAN用 上記MODと同じ
MIX
1~3個のOSC関係を比較しながら見ることができる。 基本的に上記と重複している項目が大半。 ディスプレイは3ページに渡って表示される。
- OUTPUT:ON / OFF
- LEVEL:0~63
- FINAL:0~63
- SAT:OFF,EMU,1~15 サチュレーション。
- WAVE:75個の波形から選択
- OCT:-3~5 オクターブ
- SYNC:ON / OFF シンクボタンと連動
- AM:ON / OFF ボタンと連動
- SEMI:-12~12 半音
- FINE:-31~31 31で半音変化する。1当たり約3セント。
- SYNC:ON / OFF シンクボタンと連動。上と重複
- AM:ON / OFF ボタンと連動。上と重複
MODES/EMU(SQ80エミュレート)
MODEは基本設定となる。
- SYNC:ON / OFF
- AM:ON / OFF
- MONO:ON / OFF
- GLIDE:0~63 ポルタメント
- RESTART 右項目で音のスタート時の振る舞いを設定
- VC:ON / OFF
- ENV:ON / OFF
- OSC:ON / OFF
- CVC:ON / OFF
続いてEMU(SQ80エミュレート)の設定ページ
- BEND:0~36
- MODE:
- VSTEAL(Voice stealing mode):SOFT / HARD
- AMBUG:ON / OFF
SQ80のバグのエミュレーション。ONにするとワンショットを併用したサウンド 波形が影響を受ける。
EMU 2ページ目
- DCA1-3:EMU / FAST
- MUFFLE:ON / OFF
- DCA4:EMU / HARD
- DC-BLDCK:SMART / ON / OFF
SYNC:ON/OFF
OSC2の位相をOSC1の位相に同期させる。 つまり、OSC1が波形の1つの完全なサイクルの再生を終了して別のサイクルを開始すると、前のサイクルが完了しているかどうかにかかわらず、OSC2はサイクルの最初にリセットされる。
AM:ON/OFF Amplitude Modulation
OSC1の振幅がOSC2の振幅をモジュレート。OSC2の振幅エンベロープは無視。2つのOSCーで再生される周波数の合計と差で「側波帯」周波数が作成される。 動作としては、より一般的なRing Modulationと似ているが、変調された元の信号も含まれる。つまりOSC2の信号はそのまま残り、OSC1の信号は消える。 またOSC1とOSC2のON/OFFにかかわらず同じように鳴る。
MONO:ON/OFF
レガートモノラルモード。
LFO x4
- FREQ:0~127 LFOの周波数
- RESET:ON / OFF ノートオンでリセットするかを設定。
- HUMAN:ランダムな要素を追加して機械的サウンドを弱める。
- WAV:
実機は以下の4つの波形が選択できた。SQRは点滅のような使い方となる。
SQ8LはOSC波形も選択可能となっている。
BIP = バイポーラ矩形波
- L1:0~63 ノートオンでLFOが再生されるレベル。
- DELAY:0~63 L1からL2へ移行するレートの決定。値が小さいほど遅延が長くなる。
- L2:0~63 DELAYで定義されたランプの最後にLFOが到達するレベル。キーが解放されるまで、このレベルにとどまる。
- MOD:上記と同じ。-63~63
- FREQMOD:上記と同じ。-127~127
- PHS:0~63、0T~63T LFOの位相オフセットを調整。
- SMTH:0~63 LFOの波形のスムージングをコントロール。0は変化なし。
- DELAY:
SMTH = 滑らかにする。
EMU = SQ80/ESQ1の非常に粗いフェードをエミュレート。 - AM:
UNI = ユニポーラ変調
BIP = バイポーラ変調
PHS = 位相オフセットを変調
SMT = 滑らかに変調 - FM:
UNI = ユニポーラ変調
BIP = バイポーラ変調
PHS = 位相オフセットを変調
SMT = 滑らかに変調 - PLAY:
FWD = 順方向再生
REV = 逆再生
1XF = ワンショットフォワード
1XR = ワンショット反転:波形を1回逆方向に再生
ENV(エンベロープ) x4
かなり複雑なエンベロープの操作が可能で、DX7を参考に作られたように思える。
基本的には通常のADSRを拡張したもので、下図を知っている必要がある。
使いこなす上で重要なので実機ではパネル上にも描かれている。 Lは位相反転も可能。
- L1:-63~63
- L2:-63~63
- L3:-63~63
- LV(Velocity Level Control):0~63L(線形応答)、0~63X(指数応答)
- T1V:0~63 Velocity Attack control
エンベロープのアタックタイムであるT1をキーボードのベロシティに反応。T1Vの値が大きくなると、キーストライクが強くなりT1が減少し、アタックタイムが速くなる。
- T1:0~63 値と実際の時間は以下のような関係になっている。
- T2:0~63
- T3:0~63
- T4:0~63、0~63R
0~63にある場合、T4は期待どおりに動作し、T4で指定された時間内にエンベロープレベルがリリースレベルからゼロになる。63を超えるとT4には0~63Rまでの別の値の範囲がある。値の後に「R」が続くとセカンドリリースとなり、シミュレートされたリバーブエフェクトが発生する。
サンプルはT4=43Rの例。たっぷりリバーブが掛ったように聞こえる。
- TK(Keyboard Decay Scaling):0~63
値を上げると、キーボードの上の方で演奏するにつれて、T2とT3が減少する。したがって、高い音は低い音よりも早く減衰。TK に割り当てられた値が大きいほど、最高音と最低音のディケイタイムの差が大きくなる。これは低音が高音よりも長く鳴り響く傾向がある多くのアコースティック楽器(ピアノなど)のディケイパターンをシミュレート。
2ページ目はSQ8Lの独自拡張機能。
- L0:-63~63 エンベロープの開始レベル。以前は常にゼロレベルに固定だった。
- CYC:ON / OFF 各エンベロープを個別に制御。
- SHAPE:シェーピング。EXP=指数 TAN=双曲線正接
- SMTH:0~63 エンベロープのスムージングを制御。0は無効。
- TIV:T1 / SMT
T1 = ベロシティはアタックタイム(T1)をT1Vの量で変調。 SMT = ベロシティはT1Vの量で滑らかさ(SMTH)を変調。
MAT(Matrix Modulator) x3
マトリックスモジュレータ。各種ソースを複数組み合わせて、より複雑な変調を可能とする。
- M1:MODと同じ -63~63
- M2:MODと同じ -63~63
- M3:MODと同じ -63~63
- Amp:MODと同じ -63~63
MIDI CCについて
今どきのプラグインのようなオートメーションは難しいのだが、 MIDI CCを使うことで割りと自由にDAWから変調を掛けることができる。 下記はReaperでCC#74(Brightness/Cutoff Freq)を使ってLFO的にFILTERのFREQを動かしている。
しかし、これの再生後、鍵盤からちゃんと鳴らなくなる。 そのときはPANICボタンを押すと復活する。