CLAPi u-he Podolski 無料
概要
u-he純正無料シンセは以下の3種があるが、どれも有料版から切り出されたような単機能なものになっている。
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PODOLSKI:2005年~
FilterscapeVAから切り出されたアナログ系シンセだが、現行品とはオシレータが違う。 -
Zebralette(Legacy):2005年~
Zebra LegacyのOSCを1個搭載したウェーブテーブル系シンセ。 -
Zebralette3:2024年~
Zebra3のOSCを1個搭載したベクターウェーブテーブル系シンセ。 2024年2月16日ベータ版公開。 -
Triple Cheese:2006年~
Zebra2のCombに近い物理音源系だが、いろいろ違う。
PODOLSKIは、2005年からあるu-heの無料のアナログ系シンセ。 現在正式リリースされていないCLAP対応のベータ版をReaperで試してみる。 u-heの無料版シンセは、有料版の切り抜き要素が強めなので、Zebra2を持っていれば不要かなと思っていた。 ところがzebra2では思いつかない発想の音が簡単に作れたりした。 そんなこともあって今は有料版を持っていても積極的に触ってみるべきだと思っている。
以下のリンクから無料でダウンロードできる。
https://u-he.com/products/podolski/
色は好みで切換え可能。機能は何も変わらない。blue steel(青)と cozy(茶)がある。
FilterscapeVAから切り出されたアナログ系シンセ
PODOLSKIは、Musikmesse 2005で無償で配られたシンプルなシンセで、u-he初の無償版プラグインということらしい。普通そういうプロダクトは、その場限りで放置されるのが常だが、さすが自社製品を大事にするu-heで、20年近く経ってもメンテされてリリースされる。 またFilterscapeVAのオシレータを1個利用して作られたようだ。FilterscapeVAはオシレータがSUB含めて3個あり、ノイズジェネレータもある平均的なアナログシンセの構成となっている。
PODOLSKIという名前はドイツのサッカー選手の名前から付けられたようだ。そのまんま付けるなんて・・・毎回思うのだが、u-heのネーミングセンスってちょっと微妙。 下の画像は2005年に初リリースされたバージョンのUI。
基本的にシンプルな減算式シンセ。1オシレータ、1フィルター、1エンベロープ、2LFOという、シンセとしては最低限?の構成。 というか、ちょっと足りないぐらいになっている。 またu-heシンセ全体に言えることだが、シンセの基本を学ぶにはあまり適していない。癖が強すぎて一般的ではないから。 PODOLSKIの場合、一般的に見えて、一般的でないから余計にたちが悪い。 そして1オシレータ、1エンベロープは、致命的な印象を与えるが、意外と何とかなるというのがPODOLSKIの不思議なところ。 下サンプルは昔ぽいシンセベースを真似てみた。
エフェクトはディレイとコーラスという、よくある構成だがON/OFFもなくMixバランスで何とかするというスイッチレス仕様。 エフェクトに入るまでの信号はモノラルで、アンプで2ch化され、PANを振ることが可能になり、ステレオ信号としてエフェクトに入り処理されるようだ。 そして気前よくzebra2スタイルのアルペジエータもある。 下サンプルはストリングス系パッド。アナログシンセぽい音がちゃんと出せる。
FilterscapeVAのオシレータを流用したシンセということで基本構成は酷似している。 現行FilterscapeVAとはウェーブテーブルが、そもそも違うので、全く同じ音にはならないけど、パラメータはかなり近いので、似たような音は再現できる。実際PODOLSKIのプリセットをFilterscapeVAに読み込ませて鳴らすことはできるのだが、似ているけど違うという感じになった。 下サンプルはアナログシンセで出しにくいキラキラした音。
u-heシンセは、どれもマニアックで使いこなすのが大変なのだが、PODOLSKIは簡単に扱えそうという気にさせてくれる。 しかしシンプルすぎて何かありそうだ。 少しいじってみると分かるのだが、やはり一癖あるシンセで、その挙動が面白いことになっていた。 パラメータの微妙な差で、まるで違う音になったりするので、微調整が重要になってくる。 そのためシンプルな構成に似合わず、バリエーション豊かな音作りが可能。 他のシンセではなかなか出せないユニークな音も出せたりする。 例えば下サンプルのようにコンプで強烈なアタックを作ったようなクリックを鳴らすことができたり。 1オシレータなのに・・・ そこがこのシンセの奥深く面白いところ。
Global Settings
基本的な設定を行う。 上半分はボイス関係の調整。
Transpose:
ピッチを±2オクターブの範囲で半音単位で調整。
Glide:
ポルタメント
Mode:
ポリフォニック、モノフォニック、レガート、アルペジエーター モード。
Voices:
few(4ボイス)、medium(8ボイス)、many(16ボイス)
PitchBend:
プラスマイナス2オクターブで調整可能。
中央はプリセットの選択。右クリックでinitを選択するとパラメータを初期化できる。
下はアルペジエータの設定となっている。
OSCILLATOR
アナログ系だと普通2~3個のオシレータがあるのだが、Podolskiは1個しかないので、基本的に複数オシレータをミックスするような使い方はできない。 オシレータの波形はウェーブテーブルとして持っているので、シームレスに波形を切り替えることが出来るようになっている。
WaveWarp:0~100 (Mod可)
ウェーブテーブルのフレームを切り替えるためのノブ。3種の波形の間でシームレスにモーフィングする。 Inv/PWM、Phaseなどを兼用することで、アナログシンセで使うノコギリ波、矩形波、三角波など一通りの波形を網羅している。 通常のシンセであれば、波形の切り替えなどでこれらを行うが、PODLSKIではシームレスに行えるので、使い方は難しいものの、工夫次第ではかなり面白いサウンドを作り出すことが可能。
下はWaveWarpを最左から最右へ回していったときの波形。12時の位置では直線的なノコギリ波になる。 いずれも理想的なデジタル波形ではなく、やや崩れ気味のアナログ波形に近い。 きれいなサイン波はオシレータだけでは無理でFILTERを使うなどして音を丸める必要がある。
Vibrato:0~100
LFO VOICEと接続されている。
Tune:-24~0~+24 (Mod可)
音程をプラスマイナス2オクターブの範囲で設定できる。
Phase:0~100 (Mod可)
矩形波の状態から、Phaseを0から100に回してみると以下のように矩形波のデューティ比を変えることができる。 これは二つのノコギリ波を反転して合成することで実現している。デューティ比は位相を変化させている。
このオシレータの作りは現行のFilterscapeVAよりもzebra2のオシレータの作りに近いという印象。
Inv/PWM:-100~100
普通シンセは、2オシレータ以上でないと音が細すぎて、使い物にならない場合が多い。しかしPODOLSKIは1オシレータにもかかわらず、それほど細い音にならない。おそらくzebra2と似たような構造になっていて、波形を複製して、それを合成していると思われる。実際PWMはそのような方法で作り出している。 またAutoFMというものがあるので、表面的には1オシレータだけど、内部的にはいろいろやっているように思う。 下はノコギリ波にした状態でInv/PWMを-100から+100に回すと以下のようになるという例。 -100と+100ではノコギリ波の向きが逆になっているのが分かる。 また12時の0値ではアナログっぽい矩形波となっている。
PODOLSKI にはノイズオシレータがない。有料のFilterscapeVAには、オシレータx2、サブオシレータx1、ノイズx1等があるので、古典的なアナログシンセのオシレータを一通り網羅しているのだが、PODOLSKIにはオシレータが1個だけなので、どうしても出来ることは限られてしまう。 u-heの無料版シンセは、いずれも1点集中の尖がったコンセプトとなっていて、いろいろ出来るわけではない。 そういう意味ではお試し的な要素があるのかもしれない。気に入ったらフルスペックの有料版を買ってねということなのだろう。 実際、個人的にzebraletteが気に入ってzebra2を買ったという流れなので、うまく誘導された感じ。
ENVELOPE
Fall-Riseがある以外は普通のADSRとなっている。カーブは下のようにModeで4種から選択できる。またVelocityの設定もここにある。 またu-heは基本的に0~100の値でコントロールするので、時間を細かく制御するようなADSRではない。Zebraだと相対的な設定で、別途全体をテンポや時間でコントロールするので、相対的な値に意味があったけど、Podolskiはそういう設定がないね。ちょいと残念な気もするが困るようなことではない。
FILTER
一見普通のフィルターに見えるが、実は癖が強い部分で、1オシレータという不足分をここで補っている。 特にu-heの場合は周波数指定してコントロールするというより、相対的なかかり方をするので慣れが必要。 基本的に旧FilterscapeVAのフィルターだが、現行Filtescapeはさらに拡張され、クリッパーという安全装置も付いている。 またZebra2のXMFにも近いが、あちらも安全装置があるような気がする。Podolskiは安全装置なしで暴れるので、強力なピークに注意が必要。
CutoffとResonaceは普通で、Modulation1でCutoffをコントロールできる。
Type:
LPF、BPF、HPFが選択できる。
KeyFollow -100~100:
MIDIノート/キーボードからのカットオフモジュレーションの深さ。
100にすると、半音に完全に追従し、どの音域の音を弾いても、似たようなフィルターのかかり方をする。これはやりすぎなので、デフォルトは50になっている。 通常はプラス側で使うことになると思う。マイナス側は逆に高域を弾くほど減衰しやすくなる。 ブレークポイントはE2(82Hz)
挙動が読みにくいパラメータなのだが、Modulation2などを、うまく使うことでCutoffのコントロールが行える。
Drive:
歪みを調整できる。Resonanseを上げると強くなる。
Click:
短いインパルスをフィルターに入力。パンチを加えることができる。特徴的な機能で独特な音が出せるが、Cutoffの位置で大きく変化する。アナログ減算式シンセが苦手としている金属的なキラキラした音なども、これで作れてしまう。
AutoFM:
プラスマイナスにFM変調が可能なようだが、通常のFMという感覚ではない。Cutoffを動かさないと機能していないように見える。ちょっと不明なパラメータ。とりあえずCutoffを使った低い音やPWMに効果的。
LFO GLOBAL
Phase:
位相の調整が可能。
Sync:
テンポ及び時間で設定。
Waveform:
波形は基本的なものが揃っている。
Restart:
off、each bar、2~32bars。
LFO VOICE
LFO VOICE
Phase、Sync、WaveformはGLOBALと同じ
Restart:
sync、gate、single、randam。
Delay:
LFOのスタートを遅延。
DepthMod:
0にすることで普通にLFOとして機能するが、DepthModに何かを選択することで割合を変えられる。
AMPLIFIER
Pan:
ステレオポジション。完全に片チャンネルにしてしまうと、ディレイの一方は消えてしまう。
VCA:
ENVとGateから選べる。
Output:
最終的な音量の設定。音が出ているとLEDが緑色に点灯するが、0dBを超えると赤く点灯する。
Modulation:
-100~0~+100Outputに対してモジュレーションをプラスマイナスでかけられる。
DELAY
簡易的な空間演出用ディレイという印象。使用しない場合は、Mixノブを0にする。 接続順としてはDelayからChorusということかな? 空間系の後にモジュレーション系というのは、ちょっと変わっているね。多分音をより混沌とさせたかったということかな? 現行Filterscapeは多分ChorusからDelayになっていると思う。こちらは普通の順番。音作りがいろいろできるから、エフェクトは普通の接続にしたということかな?
左右でディレイタイムの設定が変えられる。時間設定はなく、すべてテンポとの同期となっている。この辺も割り切った設計だ。
CHORUS / FLANGER
フィードバックを使うとフランジャーになるという仕様。 しょぼい音がゴージャスになるということで、昔からシンセには必須のコーラス。 このコーラスはシンプルで、あまり細かな設定はできないが、モノラルを補うために音に広がりを持たせる方向に調整されている。
ディレイとコーラスの接続順が気になったのでzebra2を使ってテストしてみた。 まずセオリー通りのChorusからdelayという流れ。同じ音が繰り返されるので素直な音に聞こえる。コーラスで作られた音を空間系でディレイさせるという流れで分かりやすい。
続いてpodolskiに採用されていると思われるdelayからchorusという流れ。このときChorusの設定を過激にすると違いが出てくる。ディレイされた音と共に、強烈なモジュレーションをかけるので音がぐちゃっとしていく。混沌の世界。狂ったサウンドを目指すなら、こういう接続順はありだね。
ARPEGGIATOR
アルペジエータを使うには、ARPEGGIATORタグをクリックして切り替えて作業を行う。
主に下の表に入力して任意のシーケンスを作る。
内容的にはzebra2とほとんど同じタイプのアルペジエータとなっている。 zebra2との違いはARPMODがひとつしか使えないことぐらい。 ARPMODはここで-100~100まで任意に設定し、他パラメータをモジュレートするという流れになっている。 選択項目ではArpModulatorという名前になっている。
まとめ
シンプルすぎる仕様で使えなさそうに見えて、実はそうでもないというシンセ。 見た目以上に音色バリエーションが作れてしまうところがいいね。 音も文句ないし、特にアタックを強調した音は強力。
こういうシンプルなシンセの場合、どう割り切るかという部分に開発者の思想が見え隠れする。 PODOLSKIはシンプルなインターフェイスでありたいという部分と、 シンプルでもサウンドバリエーションは犠牲にしたくないという葛藤で揺れている気がする。 内部の複雑な部分を隠して、表面には割と普通のパラメータを並べようとしているが、ところどころ不思議な感じになってしまっている。 そして触ると、厄介な挙動が見えてくる。簡単に挙動が理解できないし、音のバリエーションもそこから生まれてくる。 こういうシンセは弄り甲斐(謎解き?)があって楽しい。
またPODOLSKIは初期のUIデザインが継承され続けているシンセ。機能性はともかく、その古っぽさは好印象。 今どきの波形が見える視覚的にやさしいシンセと違って、PODOLSKIは昔ながらのノブだけ。 何が起きているかはオシレータなどで確認する必要があるけど、その分CPUにはやさしい。 使い勝手という意味で気になるのはAEPEGGIATORが別タグになっているところかな。下に入れてくれないかなぁ。 レイアウトが微妙にズレるのも気持ち悪いし、やっぱり一望したいのよ。改造するか・・・
あと触っていて思ったこととしては、こういうミニサイズのシンセは全体が把握しやすいので、すぐに可能性の追求に入れる良さがある。 機能が多すぎると、それに圧倒されて、いつまで経っても使いこなせないという状態に陥りがち。 Podolskiはそれがない。こういう道具は、覚えた後、どれだけ使い倒すかが重要なので機能の少なさは、逆にメリットに働くようだ。