VSTi u-he Triple Cheese 無料
概要
u-heの無料シンセは3種があるが、いずれも有料製品の一部を流用した特化型で、守備範囲の広い音源ではない。
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PODOLSKI:2005年~
FilterscapeVAから切り出されたアナログ系シンセだが、現行品とはオシレータが違う。 -
Zebralette Legacy:2005年~
Zebra LegacyのOSCを1個搭載したウェーブテーブル系シンセ。 -
Zebralette3:2024年~
Zebra3のOSCを1個搭載したベクターウェーブテーブル系シンセ。 2024年2月16日ベータ版公開。 -
Triple Cheese:2006年~
Zebra2のCombに近い物理音源系だが、いろいろ違う。
Triple Cheeseはu-heが2006年にリリースしたコムフィルターを使った物理音源の構造を持っているのが特徴となっている。 おそらくzebra2のcombモジュールの流用だと思われるが、意外と強力で独自のものがいくつかあり、zebra2でも再現しきれないところがある。 2006 KVR Developer Challenge で優勝しているという輝かしい経歴のシンセでもある。 2021年にUIも普通になって扱いやすくなったが、内部を理解して自由に音作りしようとすると一筋縄ではいかない。
以下のリンクから無料でダウンロードできる。
https://u-he.com/products/triplecheese/
2006年当時のUI。好き嫌いが出そうなデザインで、名前の通りチーズという感じの見た目になっている。
アルゴリズム
内部的にはおそらくKarplus-Strongアルゴリズムに近いCombフィルタを利用した物理音源タイプのシンセ。 Combフィルタはディレイタイムの短いディレイで、特定の周波数を増減させてしまう。 これはディレイエフェクトとして使うと欠点になってしまうが、その特異な性質を音源に利用したのが物理音源で、以下のような構造になっている。
下サンプルは、短いホワイトノイズと、そのノイズに対して9.1msecのディレイとLPFを掛けたものでA2の110Hzの音が出ているのが分かる。 ホワイトノイズには音程がなく、ディレイタイムが音程を作っている。 計算式としては1000msec/110Hz=9.1msecとなっている。
Cheeseには、このようなCombフィルタベースのオシレータを3個、直列、並列につないで基本となる音作りを行う。 これにエンベロープやLFOなどを組み合わせて音の作りこみを行い、最後にエフェクトで化粧直しするという感じになっている。 減算式アナログシンセに慣れている人でも、物理音源となると、手に負えないかもしれない。 出音はかなり独特というか、生生しい音が出たりするので、アナログシンセとは別の方向性となっている。 個人的には物理音源は好きな音源のひとつで、脚光をあまり浴びなかった悲しい音源と思っている。 ポテンシャルも高く、他音源との共存もできるので、今後の発展に期待。 u-heはZebra3で、おそらくバージョンアップした物理音源を搭載してくると思うので、それも期待。
下サンプルはZebra2でも再現が難しい音。古い録音のオケという感じ。Triple Cheeseならではの音と言ってもよいと思う。
u-heのシンセマニュアルには割と細かい内容が書かれているのが常だが、Triple Cheeseは珍しく、あっさりとしか書かれていない。 いじりながら解析するしかないようだ。
CSO(Comb Synth Oscillators)
Triple Cheeseで最も厄介な部分。この部分の攻略が出来てしまえば、使いこなせたも同然。
CSOはON/OFF付きで3個あり、Combフィルタに通す波形を選択でき、それをモードという。 CSO1と他CSOは同じではない。赤枠の箇所がCSO1とは違っている。 そして選択したモードによって接続方法が決まってしまうという厄介な側面がある。 接続回路図がUIにあってほしいと思うぐらい面倒なことになっている。
並列の場合。つまり赤枠を使ってない場合。それぞれのCSOから音が出力され、お互いに影響されることはない。
赤枠内のResonatorとDampは自動的に直列の後につながるようになる。 CSO2の場合はCSO1の後につながり、CSO3の場合はCSO2の後になるという具合。その際、音は最終段から出力される。
例えばCSO2だけOFFにしてCSO3でDampを選んだ場合、CSO1とCSO3が直列となり、CSO3から出力されることになる。
またCSO2をPluck等にして、CSO3をResonator、Dampにした場合、CSO3には、CSO1とCSO2が図のように接続される。 そしてCSO3から出力されることになる。
他にも以下のような接続が考えられる。Stressorは要注意で、前の接続されたモジュールは自らも出力しつつ、Stressorにも出力する。
各モードは特徴的な音を持っている。
Pluck:プラック音。倍音の多いブザー系 弦を弾いた音
SawPluck:ノコギリ波形をベースにしたプラック。波形を見るとFMぽい。
SquarePluck:矩形波をベースにしたプラック。こちらもFMぽい。
Bowed:弓で弾いた弦楽器系
Blown:木管系。フルートやリードを思わせるややノイジーなサウンド。チューニングがかなり狂って聞こえることがある。波形的にはサイン波で、高周波ノイズが入っている感じ。
Noise(1CSOのみ):ホワイトノイズ
DC(1CSOのみ):DC信号なので、そのまま出そうとすると、音としては通常カットされてしまう。CSO2,3を使って効果を出す。
Crackle(1CSOのみ):パチパチノイズ音
Resonator(選択すると直列接続の後モジュールになる):ステレオコムフィルタ。共鳴。 DCにかけると下波形のようになった。
Damp(選択すると直列接続の後モジュールになる):12dBのローパスとハイパスを組み合わせたフィルター。中心周波数(カットオフ)は、演奏する音に対して調整される。 SawPluckにかけると以下のようになった。
Stressor(直前モジュールを利用):ステレオ・コムフィルタ。フィードバック・パスにウェーブシェイパーを使用し、フィードバック100%。 SawPluckにかけると以下のようになった。
演奏される音に対するモジュールのチューニングを決定する。
Tune:-24~24 プラスマイナス2オクターブの調整ができる。
Detune:-100~100セント単位でピッチを調整。100にすると100セント、つまり半音上になる。
Vibrato:0~100VIBRATOパラメータの設定に対して深さを決める。
ToneとDampはモードごとに振る舞いが変化する。下記表を参照。
Tone:0~100 (Mod可)
Damp:0~100 (Mod可)
Mode | Tone | Damp |
---|---|---|
Pluck | ノイズのスペクトルの豊かさ ノイズ励起 | プラックから高いパーシャルを排出。 ディケイはDampが高いほど短くなる。 |
SawPluck | 上と同じで、0.00でサイン波 | 〃 |
SquarePluck | 〃 | 〃 |
Bowed | ノイズのピッチを高くしたり低くしたりする。 | Dampが低ければ、ヴァイオリンのような響きになる。Dampが高ければ、よりアンサンブル的。 |
Blown | チューブのレゾナンスを調整し、パーシャルを閉じる。オーバーブローに聞こえることがある。 | Dampが高いほど、室内の騒音は小さくなる |
Noise 1only |
- | ノイズをLPF |
DC 1only |
- | - |
Crackle 1only |
クラックルの密度を下げる | クラックルをLPF |
Resonator 2,3(直列強制) 単体不可 |
コムフィルターのフィードバック | フィードバックをLPF |
Damp 2,3(直列強制) 単体不可 |
LPFのカットオフを調整 | HPFのカットオフを調整 |
Stressor 2,3 単体不可 |
ウェーブシェイピングの前の増幅 | ウェーブシェイパー後のLPF |
Pan:-100~100 (Mod可)各CSOとごに左右バランスの調整が行える。この段階でステレオ扱いできるので、広がり奥行きのある音も作れる。
Volume:0~200 (Mod可)各CSOとごに音量の調整
GLOBAL
Fine Tune:-100~100セント単位
Mode:ポリフォニック、モノフォニック、レガート
Transpose:プラスマイナス2オクターブで調整可能
PB (Picth Bend):ピッチベンドの範囲をプラスマイナス2オクターブで調整可能
Voices:few(4ボイス)、medium(8ボイス)、many(16ボイス)
Glide:ポルタメント
VCA
音量などを制御する。このブロックの後にエフェクトに入る。
Amp:Envelope1、Envelope2、Gateから選択可能
Pan:(Mod可) 左右バランスの調整
Vol:(Mod可) エフェクトに入った音はVol等を下げても制御できない。最終的な音量調整は以下のOutputを使って行う。
ENV
Fall-Riseがある以外は普通のADSRとなっている。カーブは下のようにModeで4種から選択できる。またVelocityの設定もここにある。 またu-heは基本的に0~100の値でコントロールするので、時間を細かく制御するようなADSRではない。
LFO
Waveform:以下の波形から選択可能
Sync:時間及びテンポから選択可能。
Reatart:each bar、2~32barから選択可能
Polarity:極性 bipolarとpositiveで切り替え可能。
Phase:0~100位相の調整
VIBRATO
Waveform:以下の波形から選択可能
Sync:時間及びテンポから選択可能。
Reatart:sync、gate、single、randomから選択。
Polarity:極性 bipolarとpositiveで切り替え可能。
以下はチューナーの画面でA4の音に対してbipolarでビブラートさせている。高低均等に音が揺れている。これがbipolarの挙動となる。最大でプラスマイナス50セントの揺れとなる。
次にpositiveで同じことをしてみる。今度はピッチが高い方にだけ揺れているのが確認できる。エレキギターのビブラートに近いニュアンスと言えば分かりやすいだろうか。 これは最大でプラス50セントの揺れとなる。
Rate -5~5 (Mod可):
Depth Mod 0~100:ビブラートの深さをコントロール。
Phase 0~100:位相の調整
Delay 0~100:スタートの遅延調整
EFFECT
ディレイベースのエフェクトがいくつか選択できる。
ON/OFFスイッチ付き。
エフェクトは以下から選択できる。エフェクトを切り替えてもパラメータに変化はない。
Chorus1:標準的コーラス。
Chorus2:センター・ディレイを持つワイド・コーラス。
Flanger:フランジャー。
Phaser:センター・ディレイが短く、フランジング向き。
Delay1:テンポに同期した4分音符ディレイ。
Delay2:テンポに同期した8分音符ディレイ。
Delay3:ピンポン風ディレイ。
Reverb:4個のディレイを使った簡易リバーブ。
Speed 0~100:数値が高いほど速くなる。下のModとセットで調整する。
Mod:深さの調整。
Feedback:基本的に減衰時間に影響を及ぼす。Phaserにみ音色に影響を及ぼす。
Damp:LPFに近く100にすると最もかかりが強くなり音がこもる。
Mix:Dry音とのミックスバランスの調整。
まとめ
減算式と比較すると、Cheeseは最終的な音をイメージして作るのが難しい。 またZebra2のcombのやり方が、Cheeseには通用しなかったりするので、なかなか厄介ではある。 またCSO各モードの振る舞いを把握するのは必須で、経験を積むしかなさそう。 あとピッチが不安定になりやすいので、チューナーを使いながら、限界値を見極めたほうが良いかもしれない。 いろいろ面倒くさい音源であることは間違いない。 こういうのをいじって楽しめる人ならよいけど、そうでない人はプリセットを使うだけにしておいた方がよさそうです。
pluck系の音。
下はチェロぽい音を作ってみた。