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あちゃぴーの自転車通勤
東海林修 機材の変貌1
1978~1982 System 700

東海林修は、1978年から2014年まで、シンセサイザーをメインとしたソロアルバムを数多くリリースしている。東海林修名義のアルバムは134枚あるそうなので、おそらくシンセメインのアルバムだけでも100枚近くあると思われる。 画家の世界で言うと、ピカソとか北斎級。

使用楽器が日進月歩の電子楽器のため、常に良い音や作業効率を求めて機材を入れ替えている。 特に80年代はアナログからデジタルへの移行時期であったため、アルバムごとに何かしら機材が新しくなって行った。 その変化がアルバムのサウンドに現れているので、アルバムごとにその時代の音がするという分かりやすさがある。 とくにシンセサイザーだけのアンサンブルが多いため、明らかな差を感じることができるところがポイント。 つまりアルバムを時系列で聴いていくと、シンセサイザーや周辺機器等の電子楽器の発展を耳で確認することができる。 親切にライナーノーツには使用機材や、そのときの技術的なことが書かれていて、まさに歴史的資料になっているのだ。

1978年2月「STAR WARS」

STAR WARS

シンセによるリアレンジアルバム。東海林修のシンセソロとしては、これがファーストアルバムと言える。 壮大なスターウォーズの世界観をシンセで再現という感じでもなくて、ビートが効いたノリのよいサウンドになっている。

3曲目のCantina Bandは時間がなかったため手弾きで演奏されている。
6曲目のThe Space Odysseyはオリジナル曲。おそらくシンセのみのアンサンブル。

このアルバムに明確に記載されているシンセは以下の通り。
KORG PS-3300(本体)(120万円) / PS-3010(鍵盤)(10万円)

KORG PS-3300

KORG 800DV(24万円)

KORG 800DV

そして謎の表記 POLYPHONIC ENBLE "ORCHESTRA"とある。これが何を意味しているのか不明。 The Space OdysseyとDesert以外では生楽器ギター、ベース、ドラム等も使用されているように聞こえるのだが、これのことを言っているのだろうか? ちなみにギターは松木恒秀さんだろうか? 何となくそんな感じがするだけだが。

その後のメインのシンセになるRoland System700。1976年にローランドから240万円で発売した、モノフォニックの大型モジュラー・シンセサイザー。 ジャケットに記載がないので使われているかどうか定かではないが、シーケンサーも使っていたということから、多分使われていたと思われる。

Roland system700

そして、制御するのは、当時としては画期的なデジタルシーケンサーであるRoland MICRO COMPOSER MC-8。発売は1977年で120万円。8chをコントロールできる。当時は1曲丸々記憶できる機材はMC-8ぐらいしかなく、MIDIが登場するまで音楽シーンを牽引した。データの保存はカセットテープを使う。 元々はカナダのミュージシャンが売り込んできたものをローランドが気に入ってブラッシュアップしていったようだ。操作性が難解で、文系の音楽家には評判はよろしくなかったようだが、東海林修は完全に使いこなしていて、かなり理系寄りと思えた。そもそも複雑な電子機器のシンセを使いたがるミュージションは理系頭が多そうだ。下の写真を見てワクワクするミュージションは少ないと思われる。

Roland MICRO COMPOSER MC-8

シンセを手弾きして多重録音した「Cantina Band」をピックアップ。本人曰く冷や汗が出るという曲。しかもソロ部分。

1978年5月「SF World」

SF World

これは完全オリジナルアルバムとなっている。ストーリーも自ら作って、スペースオデッセイという感じ。そのイメージを音にしているようだ。その後、多くの劇伴やイメージアルバムを手がけるが、元々そういうものが好きだったことがわかる。 使用機材は以下の通り。

Roland SYSTEM 700 (TOTAL STUDIO SYSTEM)
Roland MICRO COMPOSER MC-8

Roland STRINGS RS-202

Roland STRINGS RS-202

Roland CHORUS ECHO RE-301

Roland CHORUS ECHO RE-301

テープエコーで中身は下のようにメカニカルな構造になっている。

Roland CHORUS ECHO RE-301

TEAC TASCAM 5
TEAC TASCAM 5 EX
TEAC 90-16 TASCAM SERIES
TEAC F-1

Osamu Shoji Studio

Roland System700全景 Roland MC-8というシーケンサーを駆使して、スタジオのTEACのマルチレコーダーに録音するスタイル。 MC-8で扱えない楽器は手弾きで録音している。下の方に見えるチューナーらしきものはKORG WT-10Aかな。

Osamu Shoji Studio

トラックダウンはおそらく、別スタジオで行われていて、エフェクトやら、様々なアナログテクニックを駆使して制作されていた。 古き良きアナログシンセ時代。 上写真の奥はKORG PS-3300かな? 「BEM」アナログシンセの変調を利用して雰囲気を作っている。手を使ってノブを回していると思われる。

1978年9月「ビー・ジーズ」

beegees

ボーカルグループのビージーズのシンセアレンジアルバム。当時はシンセと言えば宇宙的イメージが強かったため、この依頼を受けたときは、そのギャップに面喰ったようだ。 下はSystem700に手を伸ばす先生。地味な決めポーズ!

Osamu Shoji Osamu Shoji Studio

「STAYIN' ALIVE」の後半。フェアライトCMI以降のデジタルトリップを彷彿とさせる。

1978年10月「闍多迦」

jataka

完全オリジナルアルバム。やはりコンセプトがあって、古代ロマンという感じのようだ。 機材は上記とほとんど変わっていないが、A・G・K ECHO UNIT(スプリングリバーブ)が追加された。

A・G・K ECHO UNIT Osamu Shoji Studio Osamu Shoji Studio

所狭しと置かれた機材。大型モジュラーシンセは当時タンスと言われていた。 スタジオは10Fで、地震が来るたびに、倒れてきて押しつぶされるのではないかと思い怖かった。と言っていた。 当時関東は今よりも地震が多かったのだ。

Osamu Shoji Studio

「ピラミッド・イオン」ドラムなしのアナログシンセらしい音だけで構成されているパート。

1978年11月「ザ・コクピット」

The Cockpit

松本零士原作のラジオドラマの劇伴。このレコードは半分ドラマになっている。 音楽はポップス編成のオーケストラ演奏。その後に使われる断片があちこちにある。 シンセも一部使われているがメインは生演奏。おそらくシンセを持ち込んで、一緒に手弾きしていると思われる。こういうアンサンブルは、この後やらなくなったようだ。 ザ・コクピットのテーマ。当時のポップスらしい王道展開。メロディはシンセを使っている。

1979年8月「夜間飛行」

Night Fly

完全オリジナルアルバム。サン=テグジュペリからインスパイア。10か月かけてとあるので、珍しくかなりの時間を使っている。いや、普通だよ。 機材は細かく書かれている。スペースサイザー360(下写真右)という立体音響を使っているそうだ。

Osamu Shoji Studio

Roland
System 700
Micro Composer MC-8
RE-301 Echo Chamber (120,000円)
Studio Systems PH-830 (STEREO PHASER)

Studio Systems PH-830

Studio Systems RV-800 (Stereo Spring Reverb)

Studio Systems RV-800

Studio Systems GE-820 (GRAPHIC EQ)

Studio Systems GE-820

Paraphonic 505(239,000円)

Paraphonic 505

ARP 2600

ARP 2600

Oberheim Synthesizer Expander Module

Oberheim Synthesizer Expander Module

Solina String Ensemble

Solina String Ensemble

A.K.G. Echo System BX-10
Teac Mixing Console M-5A & 5-EX(エクスパンダーユニット)
Teac F-1 Master Recorder
Teac 90-16 16track Multi Recorder
Space-Sizer 360 Composer II
Joy-Sticks Panning Control System

「A TRANSIT PASSENGER」印象的なメロディと、アナログシンセならではの音。

スペースサイザー360について

space-sizer 360

ステレオでサラウンド効果を狙っているらしい。この装置を1982年まで使っていたようだ。 ライナーノーツには技術解説はないので、よくわからないが、PANとEQの組み合わせをジョイスティックでコントロールするというイメージだろうか? よくわかりません。

1980年「ジョン・ウィリアムス サスペンス組曲」

John Williams

東海林修名義ではなく、ボーリング・グリーン名義となっている。どういういきさつで、こうなったのか知らないが、内容的にはパニック映画音楽のリアレンジだが未聴。

1980年8月「シャンバラ」

shambala

完全オリジナルアルバム。コンセプトは理想郷のようだ。 音楽的には、この後につながるポップな側面も垣間見られるが、基本的にはスターウォーズ以降のSF的な音作りの集大成という印象。 「FOLK DANCERS」

機材はあまり変化はなさそう。
Roland
System 700
Micro Composer MC-8
Studio Systems PH-830 (STEREO PHASER)
Studio Systems RV-800 (Stereo Spring Reverb)
Studio Systems GE-820 (GRAPHIC EQ)
RE-301 Echo Chamber
Paraphonic 505
Vocoder-Plus VP-330

ARP 2600
Oberhime Expander Module SEM-1
Solina String Ensemble
A.K.G. Echo System BX-10
Teac Mixing Console M-5A & 5-EX(エクスパンダーユニット)
Teac F-1 Master Recorder
Teac 90-16 16track Multi Recorder
Space-Sizer 360 Composer II
Joy-Sticks Panning Control System

1980年「Technics Audio Inspection vol.5」

Technics Audio Inspection vol.5

オーディオファン向け、テクニクスのオーディオ視聴用アルバムで、音質やレコーディングにこだわっている。基本的にはオーディオ評価用アルバムということらしい。

東海林修はA面で「枯葉」を3つのバリエーションで提供。ジャズアレンジ、ストリングスアレンジ、そしてシンセアレンジ。

サンプルはシンセアレンジ「枯葉トリロジー PartIII」。ギターぽい音は無理やり過大入力で歪ませて、だましだまし使ったとある。テープエコーなども使われていて、アナログ感満載のサウンドとなっている。

1981年7月「OUR PLANET EARTH」

OUR PLANET EARTH

神戸ポートアイランド博覧会の川鉄地球館の音楽を担当。非売品のレコードが存在している。サイズがシングルで33・1/3回転という盤。 パビリオンで上映された「われらの地球」という映像作品の劇伴と思われる。

1981年8月「さよなら銀河鉄道999 交響詩」

さよなら銀河鉄道999

1曲シンセがあるが、他は重厚なオーケストラサウンドに振り切った作品。後にも先にもこの重いオーケストラサウンドは999だけ。 謎の幽霊列車から一部。

1981年12月「さよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー」

さよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー

メインのSsytem700は変わらないが、やや使い方に変化が見られる。個人的には「銀河鉄道」で、東海林修のシンセサウンドが確立したと思っている。 機材はJupiter-8、TR-808などRolandの最新機材が追加されている。Fender Rhodes、YAMAHA CP-80の記載もある。

Roland Jupiter-8

Roland Jupiter-8

Roland Vocoder VP-330
Roland System 700
Roland Paraphonic-505
Roland Micro Composer MC-8
Roland Rhythm Composer TR-808

Roland Rhythm Composer TR-808

Arp 2600
Solina String Ensemble
Fender Rhodes

Fender Rhodes

YAMAHA CP-80

YAMAHA CP-80

Oberheim Expander Module

Osamu Shoji Studio

「La Frome Fatale」透明感抜群。

1982年6月「映画音楽万華鏡」

映画音楽万華鏡

このアルバムは映画音楽の怒涛の全曲メドレーで、ジャケットにある映画タイトルの曲が使われている。 こういうのを聴くと、普段、東海林修がピアノでアドリブメドレーして遊んでいるのが想像できる。

1982年7月「スペース・コブラ」

スペース・コブラ

オーケストラ8割とシンセ2割という感じで、重厚なサウンドトラックを作っている。同じSFアニメということもあって「銀河鉄道」の延長線上。ピアノは銀河鉄道と同じ羽田健太郎。おもしろいことにテレビ版コブラは、羽田健太郎が音楽を担当している。 サンプルはピアノ曲の「ミロスの掟」

1982年9月「THE かぼちゃワイン 音楽集」

THE かぼちゃワイン

同じ年にテレビアニメの「THE かぼちゃワイン」の音楽を担当し、100曲ほどオーケストラによる劇伴を作成し、その後にシンセ版をソロアルバムとしてリリース。これはシンセだけではなく、ドラムとギターがいて、独特なグルーブをもたらしている。 今までのスペーシーな作風に対して、昭和っぽいサウンドは逆に新鮮。ここまで歌謡曲的な方向に振ったアルバムはこれ以降ないと思う。東海林修の、特定方向に振り切った作品は大好きで、このアルバムもそのひとつ。 歌モノの作曲は武市昌久、小林亜星。 TEACの16トラックに録音したシンセアンサンブルをベースに、 外部スタジオの24トラックに、生ギターと生ドラムを追加して完成させたようだ。 ギターは松木恒秀。東海林さんのアレンジする曲では、よく呼ばれる名手。 そしてドラムは森谷順。とてもうまいなぁと思った。グルーブを維持したまま、かなりの精度で叩いてます! サンプルは「追跡」昭和ぽいベースと、メロディが癖になる。

1982年11月「デジタルトリップ ガンダム」

Gundam

System700最後のアルバムは日本コロムビアDIGITAL TRIPシリーズの「ガンダム」。これは編曲とシンセサイザーによる演奏。さすがのアレンジ力で、大胆に別の世界を構築している。 しかし当時は(今も?)賛否両論だったと思われる。多くのガンダム作品のファンはオリジナル劇伴以外を聴きたいと思うだろうか?  このシリーズはターゲット層が凄く微妙なのだけど、81年銀河鉄道でスタートして、86年の5年間で60枚ほど作られ、多分それなりに売れていたのだろうから不思議である。ちなみに東海林修は20枚ほどデジタルトリップアルバムをリリースしている。シリーズの1/3を担当していたということになる。 個人的には東海林修の作品が好きだったので、アニメ本編を見たことないのにアルバムを持っていたりしていた。

ジャケットはデジタルトリップならではの当時なりの未来的デザイン(CGチック)で、アニメの絵やロゴは一切使われていない。 その辺が、正規品ではないという、あやしい雰囲気を醸し出している。

Roland System 700
Arp 2600
Oberheim Expander Module
Roland Jupitar 8
Prophet 5 新たに導入

Prophet 5

Linn Drum I, II 新たに導入

Linn Drum I Linn Drum II

Yamaha Cp-80

ライナーノーツには以下の機器も使っていたことが書かれている。ただMC-8とリンドラムとのマッチングがうまくいかず、テープシンクロを使ったとある。まだMIDIの時代ではない。 また「いまはおやすみ」ではCP-80とFender Rhodesを使用している。
Roland Micro Composer MC-8
スペースサイザー
Fender Rhodes

オリジナルは、あまり評判がよろしくない「シェアが来る」。40話「エルメスのララァ」で使われた挿入歌。

System 700の7年間

アナログシンセのRoland System 700をメインとして使っていたのは1977年から1983年までで、7年ぐらい使っていたようだ。 この後はメインシンセがフェアライトCMIとなり、サンプリングの時代となる。

それにしてもアルバムリリース時期を見ると、おそろしいスピードで制作されているのが分かる。 約1年間で銀河鉄道、コブラ、かぼちゃの仕事をこなしているが、すべてオリジナルで、膨大な曲数で、オーケストラ版、シンセ版を出すという地獄のスケジュールにもかかわらず、その合間に映画音楽万華鏡を作るという余裕っぷりには恐れ入りました。

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