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あちゃぴーの自転車通勤
東海林修 機材の変貌2
1983~1984 Fairlight CMI IIx

Fairlight CMI IIx時代は約3年だが、アルバム数は26枚もある。 本人曰く、System700の音が気に入らなくてFairlight CMIに切り替えたという。 キンキンしない音と褒めている。また楽器の倉庫を手に入れたようだとも述べている。

1983年3月 「ゴッドマーズ」

1983年は7枚のデジタルトリップシリーズをリリース。すべて編曲、演奏で、オリジナル作品はない。 ここからFairlight CMIを使用するようになる。 サンプリング周波数30.2kHz、音量分解能8bitと低めだが、コンプ処理され、独自のFairlightらしい音として時代を象徴している。粗い音で、滑らかさとは反対だけど、これはこれで気持ち良い。 下はFairlightに付属していたスラップベースのサンプル音だが、今の時代からするとチープな印象だと思う。

機材は下記がクレジットされている。
Fairlight CMI
Linn Drum II
Roland MC-4

録音方式はPCMへ

MC-4の用途はLinn Drum制御かな? 実際には他の機材もいろいろ使っていると思われる。

下はMC-4を寂しげに打つ先生の姿。前アルバムのガンダムまではMC-8だったけど、今回から廉価版のMC-4になったようだ。手前がFairlightの鍵盤とキーボード、専用グリーンモニター。奥にはprophet-5がある。170万円なり。謎の機材は先生の前にある壁で、あれはRoland System 100Mかな? System700を手放してしまったので、Rolandから、これはどうですか? と貸し出されているのかな? いろいろ不明です。

ライナーノーツには、 「マンション一つが買えるほどの出費は勿論痛かったが苦労の数々を思い返してもやはり全力投球した喜びの方が大きいのが実感である。」 と述べている。ちなみにFairlight CMI本体のお値段は1200万円。国内で3台目ということらしい。その後も国内では数えるほどしか導入されなかったと思われる。ちなみに国内1番目のお買い上げは、TPO(安西史孝、岩崎工)。

サウンドはアレンジ含めて激変する。今までのMC-8、MC-4(上写真下段)によるデジタル数値の打ち込みから、グリーンモニター(上写真上段)上での作業となり、作業効率も改善された。 写真を見るとわかるが8トラックというと聞こえは良いが、実際には1音色(モノラル)X8トラックであり、同じ音色で8トラック使った場合、最大で8和音である。 しかも音程は現在のようなピアノロールでもないので、視認性がひじょうに悪く、1音1音アクティブにして確認するしかないと思われる。 現在のDAWと比較すると、かなり厳しい環境なのがわかる。 入手してわずか数か月で、アルバムまで作ってしまう習得の早さはさすがだと思う。

また同時発音数が8音までになったことにより、和音の扱いがやりやすくなり、より凝ったシーケンスフレーズなどを多用し始める。 「クラッシャー隊のテーマ」では「サビのメロディーの和音構成が気になったが、あとになってイマいと妙に感じた。」とある。メロの音色パンパイプは気に入ったらしくアルバムのあちこちで使われている。

「愛の金字塔」のイントロで使われているベルトゥリーは、今までできなかったとある。

1983年4月 「マクロス」

羽田健太郎作曲のマクロス。Fairlightでは複数の音を重ねるという方法をよく取るようになった。 「小白竜」では4種の音を重ねている。ベースのパターンは一定の音域を超えるとスラーがかかるようにしている。Fairlightならではの使い方をいろいろ試しているようだ。 リリース前にFMラジオに出たとき、Fairlightをようやく間違えないで使えるようになったと言っていた。 Fairlightは、楽器というよりもコンピュータそのものだし、今のようなGUIでもなく、コマンドラインでの取っ付きにくい操作なので、攻略は大変だったと思う。

Fairlight CMI
Linn Drum II
Roland MC-4

1983年7月 「ザブングル」

フェアライトを使った3枚目のアルバムということで、前作の踏襲という訳にはいかないと語っている。 「忘れ草」テーマ以外はオリジナルとなっている。ザブングルのアルバムは全体的に大人しくて地味なんだけど、なんかいい感じです。

制作後にFairlight社があるオーストラリアに勉強しに行ったようだ。
Fairlight CMI
Linn Drum II
Roland MC-4

1983年9月 「ウルトラQ」

さすが引き出しの数が半端ないアレンジャーだけあって、アルバムごとにコンセプトを決めて、表現方法を変えてくる。どのアルバムも聴きごたえ十分なのだが、「ウルトラQ」はすごく実験的で面白い。 「メインタイトル」この曲は大胆にも人の声のサンプリングを使っている。はじめて聴いた時はびっくりした。ギャグだか、シリアスだか分からない作品ってあるが、これもその一つで、妙に癖になる。70年代は「デンセンマンの電線音頭」や「笑点のテーマ」のアレンジも手掛けているので、怖いもの知らずという感じ。

1983年10月 「海のトリトン」

原曲とはずいぶん違った方向でアプローチ。「遥かなる海の彼方に」は主和音が不在!

Fairlight CMI
Linn Drum II
Roland MC-4

1983年11月 「キャッツアイ」

新たにPCM16トラックレコーダを導入し、音は前作とは明らかに変化した。 どの曲もメロディが明確で聴きやすい曲が並ぶアルバム。 「今回から自分でCRT(ブラウン管)に描いた波形を加工して作った音色を使い始めた。」とある。 曲は「10cent BAG」

Fairlight CMI
Linn Drum II
Roland MC-4

1983年12月 「オーガス」

超時空シリーズの第2段。作曲は引き続き羽田健太郎。 「恋に流されて」打楽器のカウベルをメロディで使えるように音を加工して作った曲。 この音色を”カウベルはうたう”と名付けたようだ。イントロのグロッケンに続くメロディがそれ。

ザブングルと同じで地味な印象のアルバムなのだが、こちらはミックスダウンの影響が大きいように思える。打楽器のレベルが高すぎて、他のパートが沈んでしまうという感じ。

ライナーノーツでは、従来の作曲法について触れている。 「従来の方法ではまず自分の考えをスコアに表わし、写譜屋さんが各パートを清書しそれをスタジオに来ていただいた演奏家が実際の音として表現する迄結果がわからないのです(おおよその予想は出来ますが)。更に好みの演奏家がいそがしかったり、希望したスタジオの時間がとれなかったりと、様々な変化がつきまとうものです。」

Fairlight CMI
Linn Drum II
Roland MC-4

1984年2月 「ルパン三世」

この年は8枚のアルバムをリリースしている。オリジナル作品も3枚ある。このアルバムからミキシングコンソールを新しくしている。

Fairlight導入から12か月ということで、東海林修いわく、「私なりの試験答案アルバム」と言っている。 ルパン音楽は本来ジャズなので、シンセとの相性はあまりよくないのだが、過去1年間で試した手法をいろいろ取り入れている。原曲とのイメージからかけ離れているが、すごく癖になるサウンドとなっている。「ルパン三世のテーマ」など、すごいと思う。

1984年6月 「夢みる惑星」

佐藤史生原作の「夢みる惑星」オリジナルイメージアルバム。 東海林修作曲。 サウンド的には構成、メロディ含めて複雑。オリジナル作は、きらっと光るメロディが魅力。 全体的に柔らかめの曲が多く、それでいてスケール感があるという感じで、他にない雰囲気がある。お気に入りの一枚。 「神泉トロ・ノイ」ふわっとした不思議な魅力がある。

「カラのテーマ」

1984年6月 「バイファム」

デジタルトリップ。ヤマハの新製品DX7もFairlightに取り込んで使っているようだ。 ライナーノーツではおもしろいことを言っている。 「実を云うとスネアなどただの雑音と考えていましたから。素材に生命を与えるのが作曲家の仕事ですから大いに反省する必要がありました。」 と述べている。 それにしてもTAOの曲は何か生命力を感じる。

Fairlight CMI
Roland MC-4

1984年7月 「風と木の詩」

竹宮恵子の元祖BL作品のイメージアルバム。東海林修作曲。個人的に好きなアルバムのひとつ。 やはり特定方向に振り切った作品。 全体的に物静かで寒く悲しいムードが漂っている。音楽的にはデジタルトリップとは違った方向性になっている。 はじめ、このアルバムは生演奏の方がより感情表現が出るのでは?と思ったのだが、この独特な人工的サウンドが、孤高であることは間違いない。 曲のタイトルは竹宮恵子がつけている。やはり非凡なものを感じる。 「いざまさに夢の波間に」

1984年9月 「レンズマン」

ここからスタジオが新しくなる。再びデジタルトリップなので、今まで築いた路線で制作されている。 作曲は井上鑑と歌モノは高見沢俊彦。 「愛の鼓動」オーバーハイムのホコリをはらい久しぶりに使ったという曲。 本人的には音色的に「ちょっと」という感想のようだ。 電子楽器が目まぐるしく変化していた時期なので、ちょっと前のアナログシンセの音は古臭く感じたのかもしれない。 機種は何かわからないが、1979年には下記を所有していた。 Oberheim Synthesizer Expander Module


で、上記を聴いて「どこで使っているの?」と思った人は、多分正解。おろらくライナーノーツで曲を間違えている。使っているのは下の曲「Space Shake」のイントロから鳴っているシーケンスで使っていると思われる。なるほど、70年代に東海林さんがよく使っていた手法だわ。

1984年10月 「サザンクロス」

超時空シリーズの3作目で、全体的にポップで聴きやすくなっている。作曲は佐藤健、檀雄司。 Fairlight社による3回目のバージョンアップ。 その際に音サンプルも提供していたようだ。新しい音が手に入ると、それを積極的に使っていたと思われる。 System700の時はシンセサイズで作っていたが、時代はサンプリングへ。 「SCRAMBLE CALL ~ ATTACK」雷鳴のサンプルが使われている。

1984年11月 「キマイラ吼」

オリジナルイメージアルバムでRoman Tripというシリーズ名になっている。久々にアコースティック楽器も入っていて、珍しく歌モノも作曲。サウンドは生演奏とのバランスからデジタルトリップとは全く別物となっている。バンドサウンドに近く、打ち込みぽさが薄れている。打ち込みサウンドに違和感を感じる人は、このアルバムなどは聴きやすいと思う。 使用機材は以下がクレジットされている。

Farlight CMI
PPG Wave-2(1,980,000円)

Yamaha DX-7(248,000円)

Solina Ensemble
Linn Drum
MC4

「哀しみのキマイラ」

「恍惚のキマイラ」重要なメロをギターに任せている。ギターは「かぼちゃワイン」でも弾いていた松木恒秀。 この人、弾き終わったとき、よくローへスライドさせて、ギャ~とノイズを鳴らすのだが、とても心地よいです。

相変わらず天野喜孝の絵は恐いっす。

1984年12月 「New キャッツアイ」

人気のデジタルトリップは2作目が作られるらしい。確かにキャッツアイはキャッチーで聴きやすいので、人気だったのもうなずける。 このアルバムからKurtzweil 250が導入されたようだが、本格的運用は次のアルバムから。この機種は生楽器らしい音を目指していて、賛否両論という感じだったが、東海林修は積極的にそういう音を使っている。Kurtzweilは人工知能の研究者なのに、スティービー・ワンダーの提案に乗って、起業してこのシンセを作ってしまった。現在はgoogleで人工知能の研究をしている。 「I'm so alone - Stay with me」

「PPGの生ギターを使っています。DX7のバイブ(ビブラフォン)は他の音色と同時に使っても存在感が充分なのを発見しました。(グロッケンの音で補強してありますが)」とある。このアルバムで、はっきりとアコースティックな音をシンセでやるようになってきた。多くの場合、そういうことをすると、生演奏でやれば?となるが、東海林修的には、シンセでやることに新たな可能性を見出そうとしているようだ。 Kurzweil 250(3,980,000円)

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