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あちゃぴーの自転車通勤
東海林修 機材の変貌4
1986~1987 Fairlight III

Fairlight IIIになり、サンプリング周波数44.1kHzの16bitになり、ステレオサンプリングにも対応。ようやくスペック的にはCD品質になったのだが、1985年AKAIから168,000円でサンプラーS612が販売され、サンプラーに価格破壊が起きてしまった。次々日本メーカーが安価なサンプラーを市場に投入し、フェアライトの需要は一気に終息していく。

1986年12月 「キマイラ吼III」 伊豆スタジオ

キマイラ吼III

キマイラシリーズ第3弾で、バランス的に一番好きなアルバム。 ジャケットのインパクトも半端ない! 新しい伊豆スタジオで、Fairlight IIIとなり、心機一転。 下写真にはFairlight III、Emulator IIが確認できる。

キマイラ吼III

アルバムはマニアック過ぎず、ポップ過ぎず、世界観を見事に表現しているアルバム。生楽器はサックスとギターが入っているが、これがうまい。 ギターはナスカとかプロデューサーで有名な土方隆行。86年だから、まだナスカで活動中。 サックスはベテランのJake H.Concepcion。 Fairlight IIIの音は、サンプリング周波数が上がったため、IIxのころのようなゴツさがなくなり、随分ナチュラルになったように感じるが、それ以上に生楽器とのバランスを考慮し、ミキシングで調整したと思われる。 すべてにおいて好バランスで、完成度がひじょうに高い。ミキシングしたエンジニアも素晴らしい。何人もの実力者が集まって、マジックが起きた例だと思う。

まず驚いたのは1曲目から「遥かなる螺旋の夢」のイントロでのマリンバのような音で、Bounsing Ball処理のようなことをやっている。ディレイでやっているのか分からないが、音楽の中で使っているのは、これしか知らない。独特の雰囲気がマッチしている。 また裏で鳴っているサンプリングしたシタール?らしいが、和楽器に聞こえてしまう。 その楽器のファ-ソ-ファ-レというループするリフは、三味線風で不気味さを演出している。初っ端からいろいろやってくれる!

同じ「遥かなる螺旋の夢」のメロディー部分。転調を繰り返す一筋縄ではいかないこのメロディーはとても印象に残る。その後キマイラらしく尺八が入る。和のエッセンスをうまく入れつつ、世界観を見事に表現している名曲。Fairlight IIIの音はナチュラルすぎてデジタル臭さがほとんどしない。生演奏と思えるぐらいナチュラルにミキシングされている。

このアルバムの曲は全曲紹介したいぐらいなのだが、まぁギターのうまいところも、ということで、2曲目の「鬼気」東海林さんのソロというかメロというか、たいへん魅力的な打ち込みぽっく聴こえない演奏の後に少し入るギターソロ。本当はその前もあるのだけど割愛。何よりもバッキングがうまいのです。

この名盤は未だにCD化されず、レコードしかない。コロンビアさん、オンデマンドでいいのでCDリリースお願いします。 キマイラシリーズのジャケットは小説と同じ天野喜孝によるもの。相変わらず怖い絵。

1987年1月 「HORROR MUSIC SHOW」

HORROR MUSIC SHOW

ホラー映画のリアレンジ版。オリジナルも2曲入っている。ホラー系にはまっているのがわかる。キマイラの影響かな? 個人的にはホラー映画を好んで観たりしないのだが、ホラー=B級というイメージだが、音楽はA級だったというオチ。 作曲者を見るとプログレ系の人がいたり、大御所がいたりする。 作曲者にとってホラーという題材は、創作意欲を掻き立てられるのかもしれない。

前作のサウンドが生演奏方向だったが、また打ち込みぽいサウンドに戻っている。やはりコンセプトなのだろう。東海林修にとって、人間らしい揺らぎとか、ダイナミクスは、あまり重要なことではないらしい。 演奏者が音源に見えてくるという発言もしていることから、考え方がユニークなのは明らか。 ジャケットは若くして亡くなられた韮沢靖によるもので、力が入っている。

このアルバムはCDで持っているのだが、東海林さんによる解説がオリジナルの2曲だけに限られてて残念。内容はフェアライト社の人がスタジオまで訪ねて来て感動したことと、「はてしない私の夢を、あのアンドロメダ・コネクションの左半分で大きくカーブし秒速10キロというスピードで外側に拡がっていく特異な星群・バーナード・ループに想いを馳せた訳です。」こんな調子。そもそも、このアルバムはSFじゃなくてホラーなので、バーナード・ループはどうつながるんですか?と突っ込みたくなる。 「PHENOMENA」あまりホラーの香りがしない曲だけど。

音楽だけ聴く分には全然怖くない。

1987年4月 「妖獣都市」

妖獣都市

アニメ作品のサウンドトラック。この映像作品もグロ、エロ、ホラー系で個人的には観てられない。東海林修的には最近はまっているホラー系なので、ちょうどよかったのかもしれない。全体的にメロディが希薄で、ジャズピアノもしくは無調性的な扱いが多い。音色もかなり怪しい不安定なものが多く、そういう方向へ振り切った作品といえる。 ただサウンドトラックなので、細切れになってしまっているところが残念。 なぜか海外では人気で、レコードまでわざわざ作って売り出される事態になっている。

「妖閉空間」こんな感じの曲が大半を占めている。東海林修的ホラーサウンド全開。

「魔導師」とぼけた感じの曲。

1987年8月 「TV映画音楽集」

TV映画音楽集

昔のテレビドラマ劇伴のリアレンジ。古い曲ばかりなのだが、意外とシンセ版でも違和感なく楽しめるのが不思議。意外とお気に入りの一枚。

TV映画音楽集

「アンタッチャブル」巨匠ネルソン・リドル作曲。東海林修いわく「ワンコードで1小節ぐらいは軽くとばしてしまう事がよくありますが、この先生ぐらいになると1拍ごとに、なんらかの動きを和音にお与えになります。そのころは「聞く方も暇だったし書く方もそうだった」と言ってしまえばそれ迄ですが・・・」 暇だとそうなるんだ・・・

1987年9月 「トップガン」

トップガン

Fairlight IIIは、バージョン5.2になる。 アルバムは、この当時の映画音楽のリアレンジ。このころの映画はロック、ポップスを劇中に取り入れて、映画、音楽シーンでの相乗効果を狙うことが多かった。そういうこともあり「HORROR MUSIC SHOW」や「TV映画音楽集」と違って、歌モノが多めとなっている。

「トップガン」と「ビバリーヒルズ・コップ」の作曲はハロルド・フォルターメイヤー。 東海林修いわく「以前からこの人は将来活躍するであろうと思いながら忘れかけていたが、所謂、実力を持ちながらの本格的な「へたうま」で、さりげなくビバリーヒルズ・コップ・シリーズで活躍していた。」 どういう意味なのだろうか? さて「ビバリーヒルズ・コップ」は印象的だがハービー・ハンコックのロックイットを彷彿とさせるところがある。

「トップガン」の原曲。静かだが雰囲気のある曲。これもどこかで聞いた雰囲気。思いつくのは「炎のランナー」のピアノを抜いた感じのような曲に聞こえる。ディレイ処理が特にその印象を強めているかも。

シンセ曲なので、これをどうリアレンジするかがポイント。結局、この曲をイントロ扱いして、「賛美の世界」と「デンジャーゾーン」という曲のメドレーにしてしまった。サンプルはそのイントロ部分ということもあり、原曲をあまりいじらず、装飾音やパイロットの通信SEを追加し、トーンを明るめにしたぐらいだろうか。地味なところをピックアップしてしまった。

1987年9月 「交響詩の世界モルダウ」

交響詩の世界モルダウ

クラシック曲のリアレンジ版で「ウィリアムテル序曲」の第2段だが、大作ばかり。 リアレンジ作業では、譜面があるのが一番ラッキーで作業しやすいのだが、ポピュラー音楽の場合は、譜面がないケースも多いので、その場合は耳コピ頼りとなる。東海林修は依頼されてアレンジする場合がほとんどで、多くはレコード会社から、その資料である、譜面や、音源(テープなど)が渡されるようだが、充分な資料がない場合もあり、苦労するとある。「TV映画音楽集」では、テレビ放送を聞いて対応しようとしたが、実際の放送では、主題の部分がほとんどカットされていて慌てたとか書いてある。 とにかく複雑なオーケストレーションを耳コピであっという間に仕上げていくわけで、ごく一部の人にしかできない作業であることは明らかだ。このアルバムはクラシックなので、譜面はあるのだが、大作のため譜面のデータ化作業が膨大で、そっちが大変だったようだ。「魔法使いの弟子」ではフェアライトの1曲の記憶量限界まで使ってしまい、マルチトラック・レコーダーで連結するという作業だったようだ。

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