東海林修 DIGITAL TRIPさよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー
1981年12月にリリースされたアルバム。 映画を見て、音楽に衝撃を受けて、大枚はたいてLPを買ったのだ。まずサウンドトラックの交響詩編を買って、シンセも好きだったので、こちらも買ったという思い出がある。 40年経った今、改めてレビューしてみようと思う。
まず見事にアルバムイメージを表現した小松原一男によるジャケットデザインが素晴らしい。 この後に続くDIGITAL TRIPの多くはアニメキャラの絵が使えなかったか、ケチった?ためか知らないが、まがいものっぽいジャケットデザインで残念感が漂いすぎる。
DIGITAL TRIPシリーズ
元々東海林修のソロアルバムとしてリリースされたアルバムだが予想以上に売れたらしく、この後、日本コロムビアからDIGITAL TRIPシリーズとして、雨後のタケノコのごとくリリースすることになる。 東海林修は、しばらくそのシリーズの筆頭アレンジャーとして活躍することになる。その仕事のスピードは尋常ではなく、毎月のようにアルバムをリリースする時期もあった。
このアルバムの面白いのはDIGITAL TRIPと名付けておきながら、中身はアナログシンセというところ。一般的なイメージとしては、機械的な音はデジタル的ということなのだろうか。でもその後、デジタルシンセを使うようになったので、先見の明があったとも言える。
機材
このアルバムで使用された楽器は電子楽器のみと思われる。ライナーノーツに書かれている機材は以下のようなもの。 シーケンサーのMC-8による打ち込みサウンドなので、RhodesやCP-80などをどう使っていたかは不明。後から手弾きで重ねたりしているのかもしれない。
- Roland System 700
- Oberheim Expander Module
- Roland Jupiter-8
- Arp 2600
- Roland Vocoder VP-330
- Roland Paraphonic-505
- Solina String Ensemble
- Fender Rhodes
- YAMAHA CP-80
- Roland Micro Composer MC-8
- Roland Rhythm Composer TR-808
たくさんの機材が書かれているが、音を聴く限り、主力は明らかにSystem700だろう。またライナーノーツではKORGの名前も出ている。PS-3300だろうか? またRolandが全面協力していたのか、Roland機材は多い。写真を見ても制作スタジオの部屋は機材が多すぎて、身動き取れないぐらいになっている。東海林修の機材は、日進月歩の電子楽器をメインとしているので、何百万円もする機材が毎年のようにコロコロ変わっていく。
すべてのアルバムを確認しているわけではないが、時代ごとに音は激変していて、機材の影響が色濃く出ている。この時期のアルバムはアナログモノラルシンセで、音はTEACのマルチトラックレコーダーに重ねていくという手法で、どこを切ってもアナログの音になっている。多くのシンセマニアは、この頃の音を好むのではないかと思われる。音色はプリセットなどあるばずもなく、1音1音作っていくしかない。そういう作業の積み重ねで作られたサウンドは、やはり手作り感や、細部のこだわりが詰まっている。本人的にはもっと効率よく作業したかったようだが。
Trip to the Unknown 未知への旅
1曲目は交響詩版のメインテーマのシンセ版となっている。冒頭のフレーズは、ジョン・ウィリアムズの「スーパーマンのテーマ」に酷似している。東海林修はこの部分をコブラの「コブラのテーマ」マクロスの「宇宙式」などあちこちで再利用している。大のお気に入りのようだが、本人的にはマーチと言っているので、ジョン・ウィリアムズのパクリというわけでもないのかな? 他の作曲家も結構この部分を使っているので、翻案の範ちゅうなのだろう。(バイファムのテーマとかも似ているパターンだし) ちなみに音楽的に分析してみると完全4度を重ねていくという手法で、コード的な解釈はどうしたらよいものかと悩むところ。それが緊張感と盛り上がりを両立させた不思議なサウンドなっている。重厚感があってグイグイ来る感じ。その部分を比較してみた。
- このアルバム(シンセ)
- さよなら銀河鉄道999交響詩版(オーケストラ)
- コブラ(オーケストラ)
- マクロス宇宙式(シンセ)
- スーパーマンのテーマ(オーケストラ)
クラシックで似ている曲で思いつくのはホルストの火星だろうか。音の重ね方はちょっと違うが、雰囲気は似ている。リズムもちょっと違うが似ている。ということで、イメージとしてはホルストの火星が元ネタぽい。 そのままダースベイダーが出てきても違和感のないサウンドが人類がまだ宇宙にも出ていない大正時代に作られていたことにも驚きである。惑星は、その後の映画音楽に影響を与え続けている。
これをジョン・ウィリアムズがうまく使って、東海林修が、ほぼそのまま利用するというところだろうか。もしくは別の元ネタがあるのかもしれない。 ちなみに東海林修はジョン・ウィリアムズのカバーアルバムを過去に2枚も出しているので、いろいろ影響はありそうだ。
さて、シンセ的には凝りまくっていて、膨大な音色を詰め込んでいる。オーケストラサウンドをシンセに置き換えるだけではなく、積極的にシンセならではの効果を巧みに利用している。40年前に初めて聴いた時の印象は「なんて、きれいな音」だった。
当時、シンセサウンドで有名なのは冨田勲と喜多朗だろうか。個人的には冨田勲サウンドは、いろんな意味でやりすぎという印象が強く、喜多朗サウンドはヒーリングミュージックで眠くなるという感じ。それに対して東海林修はリズムを積極的に使ってくるあたりからも、よりポップス寄りで聴きやすかった。
また後半の展開も好きで、交響詩版では、音楽が映像を引っ張る役目すらあった。はじめがシンセ版で次が交響詩版。 ティンパニーの破壊力は半端ないね。
Mysterious Larmetal 幽玄なるラーメタル
この曲も衝撃的だった。シンセの音をこう使うのかと感心させられるところが随所にある。完成されたオーケストラアレンジから、こうも変化させられるセンスは脱帽。 劇伴では、このシーンで、この勇ましさは何? という違和感とは違う音楽の効果を感じた。 はじめが交響詩版で、次がシンセ版。懸命に作曲した部分と言っているところをピックアップ。
Doom's Day 最後の審判
この曲の前半は交響詩版の「崩壊する大寺院」で、後半が「黒騎士との対決」となっている。 ビョンビョンしたシンセベース、ドラム音が印象的で、シンセ版は交響詩版の迫力が薄れて、随分ポップになったと思った。 中間部でのリバーブの使い方とかが結構斬新で、独特の効果をもたらしている。 交響詩「崩壊する大寺院」は本人もお気に入りで演奏会でもやりたい曲だったようだ。大太鼓が鳴り響く迫力満点の曲で、ホルンはハイCの雄叫びを上げる。 前半がシンセ版前半で、後半が交響詩版の同じ部分。
Dream 青春の幻影
ロマンティックな曲。イメージアルバム風と木の詩「いざまさに夢の波間に」も同じ様式で、より複雑な構成となっている。
Waves of Light 光と影のオブジェ
おそらく東海林修のシンセ曲で一番有名だと思われる。交響詩版に比べ、効果音少な目のリアレンジ版。よりストレートな音色になっている。
映画を見ていて、一番強く印象に残った曲でもある。他がオーケストラなのに、この曲だけがシンセで、しかもサイケな作画。ほとんど曲のプロモーションビデオになっていた。作画はこの曲のイメージに合わせて後から作られたというから、りんたろう監督に相当気に入られたのだろう。さよなら銀河鉄道999の良かったところは、音楽をぶつ切りにせず、長々と使ってくれたところ。東海林修のかかわったアニメでは、999だけが音楽を非常に大事に使ってくれたと思う。りんたろう作品を見ると、どれも音楽を大事にしていることに気づく。音楽家の選び方も使い方も理解度が違うと感心する。次回作の幻魔大戦ではキース・エマーソンに、佐渡鼓童だからね。大友克洋を起用したのにも驚いたけど。りんたろう監督作品で一番好きなのは999ではなく「吾輩は猫である」だけど。これはビバルディの四季をうまく使っていた。
La Femme Fatale 運命の女
交響詩版ではピアノを羽田健太郎が弾いていて、使われたシーンも相まって人気曲となっている。 個人的には、こっちのシンセ版の方が好き。オーケストラが盛り上がっていくのに対して、こちらは悲しいままという感じ。とくにバックのパッド音はそういう効果を出している。生演奏は感情が乗りやすいが、シンセによる機械サウンドは、整然としすぎて無感情になる効果がある。それがこの曲では効果的に使えているように思う。
The Promised Land 約束の地
交響詩版ではバス歌手による歌があるので演劇か?という感じの曲。こちらは音色で多少継承しつつも、独自のポップさが追加されている。特にリズム音がテクノという感じ。
SAYONARA
原曲のイメージを崩さず割と素直にインストにした感じ。映画ファンに気を使ったのかな? この後は容赦なく原曲崩しまくるアレンジするからね。
全体的に
前作の「銀河鉄道999」の音楽は青木望が担当して、アニメ音楽のレベルをガンと上げてしまったのだが、次回作の「さよなら銀河鉄道999」は東海林修が担当することになった。なぜそうなったかは知らないのだが、前作が非常によかったのに、作曲家を変えるというのは、かなり冒険だったと思う。さらに当初は全編シンセサイザーを使う予定だったので、全く違った方向を狙っていたのかもしれない。制作側からはシンセを使う作曲家という指名があったようだし。でも途中で東海林修本人が全編シンセにいささか不安を感じ、オーケストラへ切り替えてしまった。その結果1曲だけシンセとなり、かなり印象的な構成となった。 サウンドトラックである交響詩版は、そのうちレビューしようと思うが、ドラムセットやエレクトリックな楽器が不在で76人編成という、明らかなクラシック編成による壮大で重厚なサウンド。このようなサウンドは東海林修作品では後にも先にも「さよなら銀河鉄道999」だけだと思う。
この後のシンセアルバムと比較すると、このアルバムのサウンドは凝りまくっているのが分かる。 ライナーノーツにも書かれているが、7週間かけて制作したようだ。 作曲は、その前段階でオーケストラアレンジが完成している。 仕事が異常に早い東海林修としては異例ともいえる時間のかけ方である。 大半はトラックダウンに使っているようなことを言っているが、音作りやシンセ用のアレンジにも相当時間をかけていると思われる。 重なっている音の数が凄いし、単音を重ねた和音、次々出てくる新しい音などなど。モノラルモジュラーシンセをここまで使いこなすというのは驚きであり、相当苦労したと思う。 元々がオーケストラアレンジだったので、使う音色数も必然的に多くなってしまったのかもしれないが、それだけ聴きごたえのあるサウンドになっている。